食べ物

2019.02.09公開。
ワンライ参加作品。お題は【食べ物】
矢後くんにおにぎりの施しを与える久森の話。

 男子校の購買部の昼休みはまさに地獄である。毎日、学校中のヤンキーが殺到し、鬼のような行列を作っている。よく購買のおばちゃんはそのヤンキーの圧に耐えられるものだ。
 久森はそんな購買に近寄るはずもなく、通学路のコンビニで弁当やおにぎりを買って、誰も来なさそうなところで食べていた。お昼くらい、一人で静かに食べたかった。
「お、食い物」
 校舎裏で一人、コンビニで買ったいなり寿司を食べているとどこからともなく声がして、手が伸びてきた。いなり寿司を一つ奪われる。嫌な予感がして隣を見ると矢後がいなり寿司を口に入れるところだった。ああ、終わった。内心ため息を吐く。
「勝手に人のものを食べちゃダメって幼稚園で習わなかったんですか」
「腹減ってんだよ」
「購買行けばいいでしょう、購買」
「行列がだりー。昼食う気なくす」
 矢後が行けば、ヤンキーはモーセのごとく道を開けて、順番を譲ってくれるのではないかと久森は思うのだが、口には出さなかった。そして、それはおそらく久森にも適用されるだろう。
「まあ、気持ちは解ります。行列並ぶの面倒ですしね」
「カレーまんとかねーの?」
「買ってません。あと、これ僕のお昼ですから」
 さらにもう一つ奪われそうになって、さっといなり寿司の容器を取り上げる。矢後がチッ、と舌打ちをした。
「お前、腹すかせた先輩への思いやりとかないわけ?」
「矢後さんがもう少し尊敬できる先輩だったらあったかもしれないですね。ていうか、行列がだるいならお昼休みの後で買いに行けばいいじゃないですか。どーせ、真面目に授業も受けてないんでしょう?」
「昼過ぎたら食う気なくすじゃん」
「知りませんよ……そんなこと」
 矢後が昼を食べようが食べまいが、どうでもよかった。まあ、いつ呼び出しを喰らうか分からない以上、何か食べていた方がいいとは思うが。久森に断られ、矢後はそこら辺で寝転び始めた。本当にどこででも寝る男だ。ただでさえ先が短いのだから、もう少し場所を考えて、自分を大事にして欲しい。
 コンビニの袋からいなり寿司だけでは足りないと思って買ったおにぎりを取り出すと矢後の方に投げる。飛んできたおにぎりをキャッチすると矢後が振り返った。
「それ、貸しにしときますね」
「おお、さんきゅ」
「今度、豆狐のいなり寿司でも奢ってくれればいいですから」
 久森の言葉を聞いているのかいないのか。おにぎりを食べる矢後を見ながら、久森は動物園の飼育員のような気分になっていた。

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