ワンライ参加作品。お題は【パトロール】
江波区をパトロールする風雲児の話です。
通学路を浮遊していた幼生体におかしな動きはないし、イーター予報も今日は平和な一日だと言っていた。こういう日はさっさと家に帰って、据え置き機のゲームがしたいところなのだが、ヒーローという責務に就いている手前、そういうわけにもいかなかった。今日はパトロールの日だ。
いつも通り、校門前に出ると珍しく矢後が欠伸をして久森を待っていた。待っているというよりも、そこに立っているだけという感じだが。
「珍しいですね、矢後さんが先に校門前に出てるなんて」
「あー、だる。超大型イーターくらい出ねーかな……」
「また罰当たりなことを……。今日はイーター予報も平和な一日って言ってましたし、未来視して何もないなら帰っちゃおうかな……」
「別にしなくていいだろ」
久森が未来視をしようとすると矢後に止められる。
「何も出ねーって予報でも出てんだからよ」
「まあ、神経使いますし、しないならしないに越したことないですけど……。それでもパトロールをサボるわけにはいかないでしょう」
「んじゃ、今日は海にでも行くか」
「パトロールはどうするんですか……」
「それがパトロールだよ」
ドヤ顔で笑う矢後に久森は怪訝そうに首を傾げた。
「はあ……なんでまた海なんですかね?」
「え? 気分」
「はあ……」
それなら僕はさっさと帰ってゲームがしたい。そう口から出かかるが、未来視もしていないのにパトロールもしないのはどうにも気持ち悪い。仕方なく矢後に付き合うことにした。
風雲児高校から阿良町陸橋を渡り、八草川に沿って歩くとほどなくして海に辿り着く。近くには少年野球チームがよく練習している運動公園があった。平日の放課後だからか、チームではなく、近所の子供たちが集まって野球をしている。
ここまで来る間も何もなかった。幼生体におかしな動きもない。本当に今日は平和な日だ。野球に興じる子供たちを見て、久森がふう、と息を吐くと矢後は近くにあったベンチに寝転がった。
「どうして当たり前のように横になるんですか……? これ、パトロールなんですよね?」
「二、三時間したら起こして」
「置いて帰りますよ」
当たり前のように久森に起こすよう命じて、矢後が目を閉じる。ふう、と久森がため息を吐いているとピッチャーをやっていた子供が大暴投した。彼の投げたボールが矢後の頭をめがけて飛んでくる。矢後勇成はこういう不運によく遭う男だった。
「あっ! 矢後さん!」
久森が思わず声を上げた。しかし、どういうセンサーが働いているのか、矢後はパチッと目を開けて、飛んできたボールをしっかり手で受け止めていた。投手の子供は不良にボールをぶつけてしまったと思って、ビビって泣きそうになっている。他の子供も焦っているようだった。
矢後がゆっくり身を起こし、子供たちの方まで歩いていく。久森はどうするつもりなのだろうと思いながらそれを眺めていた。一年ほど一緒にいて矢後という男がある程度分かってきたので、殴るような真似はしないだろうという確信はあった。
「これ投げたのお前?」
「あ、ごめんなさい……」
「今度から気ぃつけろよ」
ビビってもはや泣いている投手の子供にボールを渡すと矢後は欠伸をしながら、久森がいるベンチの方まで戻ってきた。
「……帰って寝るわ」
「パトロールはしましたしね、一応」
パトロールと言えるかどうかは分からないが、まあ辺りを見て回ったことには違いない。帰りたいのは久森も気持ちはおなじだったので帰ることにした。
「あの人たち、風雲児のヒーローだよ! 背中にクソダサい刺繍あるもん!」
「あっ! ホントだ! クソダサい!」
「でもオレ、鳳凰の方はかっこいいと思う……亀の方はダサいけど」
子供たちの無邪気な声が無駄に久森の心の傷口を抉る。亀の方はダサいとは何だ。亀の方はダサいとは。
「さっきの怖い顔の人、知ってるよ。風雲児のヤゴだ!」
「でも、風雲児って不良高校じゃん。ヒーローなら白星のほうがかっこいいって」
「風雲児もいいじゃん。この辺り守ってくれてるんだぜ!」
子供の一言に少し胸が温かくなる。ヒーロー業は嫌々やっているが、そう言ってもらえると本当に嬉しい。
「なあなあ、鳳凰の方はヤゴだけど、もう一人の亀の方は?」
「え、亀の方? 知らね」
「あのクソダサい刺繍、かっこいいと思ってんのかなぁ?」
僕、好きでこの刺繍されてるわけじゃないんだけどなぁ?! なんだか自分が痛い奴にされているようで、久森は再び子供に心を傷つけられてしまった。
190224
