2019.01.12公開。
ワンライ参加作品。お題は【雪】
アポなしで久森のおうちにやってきた矢後くんがそのまま居座ってみかん食べる話。微妙に雪カドスト要素があるよ。
実際の触る雪は冷たいし、濡れるから嫌いだが、家の中から見る分には風情があっていいと思う。だがもう触るのはごめんだ。この間の一件で一生分は触ったので今後の人生はもう触りたくない。
「うわ、真っ白。これ、帰るの大変ですね。矢後さん」
窓から外の植木や道に白く、こんもりと積もった雪を見ながら、久森が嘆息した。ぬくぬくこたつにこもっていた矢後が顔を上げる。
「何、お前、こんな雪の中、人を帰らせるつもりなの?」
「当たり前ですよ。アポなしで来たくせに何言ってるんですか。積もらないうちに帰ってくれれば良かったんですけどね……。そもそもなんでうちに来たんですか」
我が物顔でこたつに入っている矢後を睨みつつ、自分もこたつに入る。
「家は姉貴がうるせーから。合宿所は武居がうるせー」
「はあ、矢後さん払いに僕もうるさくなろうかな……」
「お前はもうすでに十分うるせーわ」
「じゃあなんでうるせー奴の家に来たんですか……」
はあ、ともう一度ため息を吐いてから、机の上のみかんの皮を剥く。すべて剥き終えるとごく自然に矢後の手が伸びてきた。くれと言わんばかりである。
「ん」
「ん、じゃないですよ。なんなんですか」
「剥いたやつくれんだろ?」
「矢後さん、みかんの皮も自分で剥けないんですか?」
わざと大げさにため息を吐いてから皮を剥いたみかんを仕方なく渡す。そして、もう一つ、自分用に皮を剥いた。
「雪、また降ってんな」
「げ、ホントですね。これはもっと積もりそうです。窓から見る分にはきれいなんだけどなぁ。はー、明日のパトロールまでには溶けてて欲しい」
「伊勢崎とかあの辺の連中がはしゃぎそうだな」
「よくやりますよ、ホント……。僕はもうやですよ、雪は。本当に……」
「またなくしたらかなわねーもんな」
「そもそもの元凶が何言ってるんですか……」
二人で窓の外を降る雪を見ながら、みかんを食べる。なかなか風情のある穏やかな時間だ。しかし、刻一刻と日付が過ぎる時間に近づいている。
「あの、矢後さん。まだ帰らないんですか?」
「みかん食ってたら眠くなってきた」
「あ~、帰らないんですね。そんな感じしてました。こたつで寝ないでください。また風邪ひいて入院ですよ、矢後さん」
こたつでそのまま寝転がろうとする矢後のために仕方なく布団を敷く。自分の布団がなくなるが、まあ仕方ない。また風邪をひかれて、入院されるのも嫌だ。そもそも、こんなに寒い中帰ったりなんかしたら、矢後の防寒装備では絶対に風邪をひく。ジャケットの下はシャツ一枚だと聞いて、「正気か?」と思ったものだ。そういえば、クリスマスの一件では寒空の下、ベンチで寝ていた。もしかして、寒さも分からないのだろうか。
「矢後さん、いつも恐ろしく薄着ですけど……もしかして、寒さも分からないんですか?」
「あー? 空気がつめてーのくらい分かる」
「なるほど、曖昧な返事ですね。でもこっちが心配になるんで、せめて、もう少し厚着しましょうよ……」
久森のぼやきに「おー」と聞いているのか聞いていないのか分からない返事を返す矢後に溜息を吐きながら、布団をかぶせた。
190112
