「戸上宗一郎」「夜明け」
夜間に現れたイーター討伐が終了した頃、すでに東の空は白んでいた。夜の帳を太陽の白い光がこじ開けていく。戦闘が始まったときはまだ深夜で真っ暗だったというのに……随分長い戦いだった。
「佐海」
「もうイーターの気配はありません」
戸上が佐海に訊ねると彼は微笑みながら答えた。
「久森はどうだ?」
「はい。僕も視ました。さっき矢後さんが倒したので最後です」
佐海に続いて、さらに久森に訊ねると彼もそう答えた。未来視ができる久森が佐海のイーター感知能力を裏付ける。この二人が言っているのだから間違いない。
「そうか。じゃあ、帰ろう。矢後、透野……起きているか?」
リンクを解き、さっきから発言がない二人の方を振り返ると案の定、揃ってうとうとしていた。
「あ? もー出ねーの? ふあ~、ねむ……」
「僕も眠いです。お腹もすいたな……」
矢後はさっきまで元気に大鎌を振るっていたくせに戦いが終わったとなると途端にこれである。透野はきっと緊張の糸が解けたのだろう。
「矢後さん、寝るなら合宿施設に戻ってからにして下さいよ。ほら、透野も!」
世話焼きの佐海がふらふら歩く矢後と透野の背中を押す。それを久森が微笑みながら見ていた。佐海くんがいると楽だなあ。そう言いたげだ。
「二人とも戻ったら寝た方が良さそうだね。僕はお腹すいたかな……。でも、寮母さんってもう来てるっけ」
「夜、明けたばっかだし、まだじゃないですかね。俺がチャチャッと何か作りますよ!」
「それなら僕も手伝うよ。何にしようか。あ、戸上さんは何か食べたいものありますか?」
佐海が矢後の背を押すのを手伝いながら、久森が訊ねてくる。戸上としてはこの二人にしてもらってばかりでは悪いので、できれば手伝いたかった。
「二人にしてもらってばかりでは悪い。それなら俺も朝食作りを手伝おう」
戸上がそう言うと佐海も久森も血相を変えた。
「そんな! 戸上さんに手伝ってもらうなんて悪いですよ! 矢後さんがあれな分、ほとんど戸上さんが誘導してくれてたみたいなものだし!」
「そうですよ! 戸上さんはゆっくりしててください! 朝飯くらいパパッと作っちゃいますから!」
「しかし……」
先輩相手だからと言って、そこまで優遇される謂われはない。さらに戸上が食い下がろうとしたところでうつらうつらしていた矢後の様子が変わった。
「あー……もー、限界だわ」
「あっ! ちょっと……寝ないで下さい! ちょっと、矢後さん! 矢後さん!?」
久森に背を押されていた矢後が地面にずり下がっていく。久森の叫びも虚しく、くかー、などと健やかな寝息が聞こえてきた。
「はあ……このまま置いて帰ろうかな……」
仰向けになって寝ている矢後を見下ろして、子育てに疲れた母親のような顔をした久森が呟く。佐海もげんなりしている。透野も相当きているようで目を擦りながら佐海に寄り掛かっていた。
「はは、矢後は俺が引き受けよう」
「あ、お願いできますか? よかった……」
「少し手伝ってくれないか」
「はい」
久森に手伝ってもらいながら矢後を背負った。戸上の背に載せられると自然と矢後の手がその肩にしがみつく。なかなか強くしがみついてくるので、あと一人引き受けられそうだ。
「佐海、透野もいけそうだ」
「え、大丈夫ですか?」
「朝食作りを手伝わせてくれないんだろう。これくらいさせてくれ」
「あはは……ありがとうございます」
矢後を背負い、さらに透野を片腕で抱える。普段の米俵ならまだしも、高校生を二人も抱えるのはなかなか堪えた。しかし、二人のためにこれくらいはせねばならない。
「戸上さん、大丈夫ですか?」
「さすがに重いな……だが、大丈夫だ」
「……戸上さんが矢後さんと透野を部屋に送ってる間にうまい飯、作っときますね!」
空を見れば、すっかり夜の色は消えて、朝の色に切り替わっている。しかし、少し眠くもあった。佐海も久森もそんな素振りを見せないが、眠いのだろう。たまに目をこすっている。
三人とも朝食を食べたら、少し仮眠をとろう。そう決めて、合宿施設の方角へ歩を進めた。
200425
