クリームソーダ

夏の日差しが眩しい。リゾートホテルのプールサイドから見えるのはどこまでも広がる海だ。以前無人島で見た海もこれくらいきれいだったが、今回はコモドドラゴンやバイソン、毒キノコなどの命の危険が及ばない分、気持ちが一層開放的だった。無人島では道端で寝ていた矢後がいきなりコモドドラゴンに頭を喰われたり、頼城が七つの海を渡り歩いた交渉術でサルと交渉したり、得難い経験をしたものの、二度と体験したくないものばかりだったが、このリゾートホテルは何度だって来たい。
萌黄要は海パンの上にアロハを羽織り、サングラスをかけた出立ちでプールサイドに置かれたビーチベッドに寝転がり、夏のバカンスを思う存分堪能していた。日差しを遮るパラソルの下はまあまあ快適だ。脇に置かれた白いテーブルには緑色のメロンソーダにバニラアイスとさくらんぼを浮かべたクリームソーダが置かれている。お店のお姉さんがかわいいハイビスカスで飾りつけをしてくれて、かわいく仕上がっていた。
銀色の長いスプーンでバニラアイスをすくい、口に運ぶと甘い味が口いっぱいに広がる。ついでにストローでメロンソーダをすする。しゅわしゅわした刺激と共にメロンシロップの味。夏の味だ。もう少しアイスが溶けたらスプーンでかき混ぜて、美味しくいただきたい。萌黄はこうやって飲むのが大好きなのだ。
「お前、んなとこにいたの」
抑揚のない声が降ってきて、サングラスを上げると矢後勇成がこちらを見下ろしていた。
「束の間のバカンスやからなあ……。矢後も寝るか? 隣のベッド空いてるし」
「寝飽きた」
「飽きたんかい」
隣のベッドを勧めたものの、つれない態度を取る。まあしかし、移動中ずっと寝ていたのだから仕方ない気もする。このまま夜も寝ない気なのだろうか。
萌黄は今、矢後と共にバカンスに来ている。頼城が普段世話になっている萌黄に何かお礼がしたいと言ってきたので、矢後と一緒にリゾートホテルでゆっくり過ごしたいと答えたのだ。矢後というところが気に喰わなかったのか、結局全員参加のバカンスになった。ちょうど今、プールで伊勢崎と佐海が競い合って泳いでいるし、斎樹と御鷹と久森は近所にある美術館を見に行った。各々楽しく過ごしている。
当然矢後は強制参加だった。頼城と共に朝から矢後家に乗り込み、矢後の家族に見送られながら連行してきた。
「なんかつえー奴と戦うとかねーの?」
「ねーわそんなん。ここはゆっくりするところやからそういう治安が悪いもんはないねん」
「つまんねー」
「お前も寝なさい」
矢後と話しているうちにアイスがちょうどいい具合に溶けてきた。ぐりぐりスプーンでソーダをかき混ぜる。
「お前ってアイスとソーダ混ぜんの? カレーは混ぜねえくせに」
「混ぜたらおいしいやろ。カレーはダム作りながら食べんのが楽しいから混ぜへん」
ストローでクリームソーダを吸うとバニラアイスで和らいだしゅわしゅわとまろやかになったメロンソーダの味がした。矢後はじっとそれを見つめている。
「一口いる?」
「ん」
矢後にクリームソーダのグラスを差し出すとストローでそれを吸う。ごくり、とその喉が動くのを観察しているとうえ、と舌を出した。
「あめぇ」
「そらそうよ。矢後も買うてくる? おごろか?」
「いらね」
グラスを萌黄に突き返すと矢後も隣のベッドに身を沈める。気が変わったようだ。
「飽きたんちゃうん?」
「気ぃ変わったから寝るわ」
プールからははしゃぐ仲間たちの声、遠く海からざざざ、と波の音が聞こえてくる。穏やかな時間だ。萌黄もゆっくり目を閉じた。