2018.12.18
電車に乗ってる風雲児の話。
久森はいきなりとんでもない事故とか視ちゃいそうだから可哀想。
強制的にブラクラ見せられてるみたいなもんやん。
「矢後さん、次の駅で降りましょう」
少し前、二人で電車移動をしているときのことだった。満員でもなく、それなり空きのある電車内にも関わらず、どこか気分が悪そうに久森が矢後の学ランを引っ張ってきた。
「あ? 行くの終点だろ?」
「気分悪くて……」
真っ青な顔をした久森は口を押さえながら、しきりにドアを見る。
「席、譲りましょうか?」
「いいです、大丈夫です!」
久森の異変に気づいた端の席に座っていた女子大生が訊ねてくるがブンブン首を横に振って、断ってしまった。一体なんなのか。少し逡巡するとその理由はなんとなく分かった。
「何か『視えた』な?」
「……」
矢後の考えは当たりだったようで久森は黙って頷く。
「次の駅で降りるぞ」
「はい……降りたら、トイレ行っていいですか……」
「トイレまで吐くなよ」
一体何が視えているのだろう。そういうものは見慣れている久森が吐きそうになっているのなら、相当ひどいことになっているに違いない。
そのうち、電車は次の停車駅で停まり、二人は電車を降りた。
降りるなりトイレへ駆け込んで行った久森だったが、吐き出してスッキリしても、その表情は晴れなかった。自動販売機でスポーツドリンクを買うと構内のベンチに座り込む。矢後もその隣に座った。
「何が『視えた』?」
「脱線事故です。あの電車が脱線して、矢後さん、また死ぬところでした。多分、僕も無事じゃないと思います」
「そりゃ危なかったわ、ありがとよ」
電柱が倒れてきても素手で受け止める矢後だが、さすがに脱線事故では死んでしまう。いや、鉄骨を素手でひん曲げてでも生きるかもしれないが。
「でも、矢後さんの他にも結構死者が出るんです……。さっき席譲ってくれようとしてたあの女子大生も……」
「……」
「未来が視えても、本当無力ですよね……こういうときに思います」
はあー……と久森が深いため息を吐く。どうやら、こういう未来視は一度や二度じゃないらしい。
矢後は久森の能力を知っているから素直に信じたが、事故を止めようとして、一介の高校生である久森が事故が起こるから電車を止めろと車掌や運転士に言っても、気が触れていると思われるだけだ。他の乗客も同じだろう。
視えていたのにどうにもできない己を彼は一生悔やむのだろう。
「こんな能力、なければいいのに……視えても、辛いだけだ」
瞳に淀んだ色を宿しながら、久森が呟いた。
181218
