8/10ワヒロワンライ「神社」「幽霊」

2019.08.10公開。
久森と矢後がだらだらアイスを食べながら、幽霊になってても会いたい相手の話をします。


――― ねえ、久森さんは幽霊になってても会いたい人っている?

 パトロール中、隣を歩いていた透野が突然そんなことを訊ねてきたのはいつのことだっただろうか。確か、ものの本で読んだとかで、色んな人に訊いているのだと言っていた。
 久森はそのときに誰が何と答えたかどころか、自分が何と答えたかも覚えていない。

「やっぱり、矢後さんかなあって思うんですよ」

 久森がふとそのことを思い出してそんなことを口走ったのは、パトロールが終わって、海月商店街近くの神社で矢後と共に涼んでいるときだった。
「あ? 勝手に殺すな」
 コンビニで買ったソーダ味のアイスを囓りながら矢後がさぞ不機嫌そうに睨み付けてきた。まあ、いつ死ぬか分からないのにいきなりそんなことを言われてはいい気はしないだろう。
「そーいうのってもう死んだヤツから選ぶもんだろ」
「そうなんですけど、なんか矢後さんしか思いつかなくて……」
 矢後のソーダ味のアイスバーに対して、久森はスイカ味のアイスを囓っていた。囓る度に冷たさと共にスイカの味が口いっぱいに広がり、暑さで茹だっていた身体に一瞬の清涼感を与える。
「なんでお前は俺にそんなに執着してるわけ?」
「さあ、なんででしょう……? 自分でも分かりません」
「ふーん」
 自分で訊いておきながら矢後は心底興味なさげにアイスを囓った。神社の木陰にしゃがみこんで二人でアイスを囓る。パトロール以外であまり二人で行動することがないだけになんだか新鮮だった。
「じゃあさ、会いに行ってやるよ。俺が死んだら。幽霊になってても会いてーんだろ?」
「え、やっぱ嫌です」
「どっちなんだよ」
 ぎろり、とまた鋭い目つきで睨まれる。一般人なら怯えるところだが久森はもう慣れたものである。いくら矢後に恫喝されようとも動じない。この一年でずいぶん図太くなったものだ。
 しかし、いくら考えても分からない。どうして矢後に会いたいなどと思ってしまったのだろう。そして、あのときの自分も何と答えたのだろうか。
(今度光希くんに訊いてみようかな)
 記憶力のいい彼のことだからきっと覚えているだろう。あのときの自分も矢後と答えたのだろうか。
「っし……帰るか」
「はい」
 アイスを食べ終えて、包みに残った棒を入れると矢後が立ち上がる。久森も続いて立ち上がった。赤い夕暮れに照らされる矢後の背中を追いかける。この一年、ずっとこの背中を追いかけてきた。矢後がいなくなれば必然的にこの背中を追うことはなくなる。そう思うと、無性に寂しく感じるのだ。
(きっと、それが理由なんだろうなぁ……)
 相手が幽霊でも、ずっとこの背中を追っていたい。矢後と出会わなければ、得られなかったものはたくさんある。憎まれ口を叩きながらも内心では感謝をしているのだ。
(でもまだ幽霊にはなってほしくないな)
 明日も、明後日も、これから先もずっと生きているこの背を久森は追い続けていたかった。

190810