2019.01.03公開。
登場人物:久森・矢後・伊勢崎・御鷹
伊勢崎と御鷹くんと初対面の久森の話。
100%伊勢崎はいきなりグイグイ来るし、その勢いに久森はビビる。
「久森くんって術式なんだよな! ヤンキー高だし、てっきり勇成みたいな厳つい武器使うと思ってた! 何使うの? めちゃくちゃ気になるんだけど!」
目を少年のように輝かせた金髪のイケメン……伊勢崎敬を前にして、久森はたじろいでいた。キラキラしている。キラキラが過ぎて、日陰者の久森は今すぐ逃げ出したいくらいである。
伊勢崎は突然風雲児にやってきた。何でも、風雲児に入った新しいヒーローが術式ということでわざわざここまでやってきたらしい。
「い、糸です……」
「糸?! すげー! かっこいいー! まあ、俺の方がかっこいいけど! 俺、エースストライカーだから!」
そう言って、伊勢崎はドヤ顔でボールを蹴るポーズをしてみせる。かっこいいと言っているが、どういう風に糸を使うかは多分、分かっていない。なんでもかっこいいと言ってしまう年頃なのだろう。久森も伊勢崎の説明だけでは彼がどんな武器を使うのか見当もつかなかった。ボールだろうか。
「勇成も言えよ。術式の子が増えたんならさぁ。俺、来年術式リーダーになるかもしれねえのに。親睦深めたいじゃん!」
「めんどくせえ」
「えー、俺と勇成の仲じゃん」
「知らねえ」
伊勢崎が口を尖らせながら矢後を睨むが、素知らぬ顔で耳くそをほじっている。外で耳くそをほじるのはやめろと言いたいが、久森は黙っていた。
「親睦ついでに久森くん、モンスタバイターってやる?」
「やりますけど……」
「えっ、マジ?! どこまで進んでる?」
「えっと……最上級の集会所クエまで……」
「すげー! ガチ勢じゃん!! 一狩り行く?」
目を相変わらずキラキラさせながら伊勢崎が訊ねてくる。ゲームの誘いは嬉しいが、そろそろこのキラキラから離れたい。
「敬さん、あんまり詰め寄ったらダメですよ」
ぐいぐい押してくる伊勢崎をそっと後ろから宥める声がする。救世主だと思った。伊勢崎の方をそっと叩いているのはこれはまたキラキラしたイケメンであった。思わず目眩がした。
「大丈夫? 敬さん、いきなりぐいぐい来るから緊張したよね?」
茶色い髪におしゃべりぼくろが特徴的な優男は人の良さそうな微笑みを向けてきた。キラキラがいきすぎてもはや胸焼けである。今時、乙女ゲーでもここまでのキラキライケメンオンパレードはない。
「ありがとうございます……だ、大丈夫です……」
「全然大丈夫じゃなさそうだけど……」
目眩がしてよろけている久森をすかさず支えると茶髪のイケメンは心配そうに眉根を寄せた。なんなんだ、一体。
「俺は御鷹寿史。同じ一年だから敬語じゃなくて大丈夫だよ」
「ぼ、僕は久森晃人……。ごめん。あんまり人と話すの、得意じゃなくて……」
「そうなんだ。俺も苦手だよ。一緒だね」
いやいや、そんなにキラキラしておいて、一緒じゃないでしょう。内心、そんなツッコミを飲み込んで、久森は頷いた。
「コミュ障全開じゃねえか、久森。全然一緒じゃねえだろ」
「矢後さんは黙っててください」
興味なさげに耳くそをほじっていると思ったら、矢後が突然どうでもいい茶々を入れてくる。割とすんなり矢後にはツッコミを入れられることに自分で驚いた。
「そうだ、久森くんのこと、晃人くんって呼んでいいかな?」
「えっ?!」
突然名前を呼ばれて、無性に緊張した。久森を名前で呼ぶ人間なんて、親くらいしかいない。今は親とも離れて暮らしているから、ほぼほぼ久森の周りに晃人と名前で呼ぶ人物はいなかった。それだけに心臓が飛び出しそうな思いだ。
「え、あ、い、いいよ?」
「なんで疑問形なんだよ」
「矢後さんうるさいです」
「そうなんだ、よかった。じゃあ、これからよろしくね、晃人くん。敬さんが風雲児まで術式の一年生に行くって言ったとき、同じ一年生だから気になってついてきたんだ。仲良くなれたらいいなって思って……。矢後さんみたいな怖い人だったらどうしようかと思ったけど、晃人くんで良かったよ」
御鷹が聖人のような微笑みを浮かべて、目眩がするようなことを言う。さらっと矢後がディスられているがどうでも良かった。ああ、御鷹くんの彼女になる女の子はいつもこんなに心臓を握りつぶされる思いをせねばならないのか。大変だな。存在しない彼女にそんな思いを馳せながら久森は頬を赤らめたまま、また頷いた。コミュ障全開である。
そんな二人の様子を見て、伊勢崎が久し振りに口を開いた。
「ずるいぞ寿史! 俺も久森くんと仲良くなりたい! 来年、俺が術式リーダーになったら、術式でボーリングとか行こ?!」
「ゲームならいくらでもお付き合いしますけど、ボーリングはちょっと……」
「そもそも術式にいる連中がボーリングとか行くタマかよ。浅桐とか絶対行かねーだろ」
「じゃあ、ザリガニ釣り!」
「それもちょっと……」
「まあまあ、敬さん……晃人くん、内気みたいだし、ゆっくり仲良くなっていきましょう?」
やたら距離の縮めようとする伊勢崎をそっと宥めてくれる御鷹の存在が実にありがたかった。
「じゃあ、このゲームやってる? 俺が今一番ハマってるんだけど」
伊勢崎が自分のスマートフォンの画面を見せてくる。最近リリースされたばかりのスマホゲーだった。ゲーム性もなかなかいいので、久森も今一番入れ込んでいる。
「やってます。面白いですよね」
名刺でも見せるノリで久森も同じ画面を見せると伊勢崎が「あー!」と大声をあげた。
「めちゃくちゃランク高くない?! 何をどうしたらそうなんの?!」
「家にいるときはずっとこれやってるので……」
「うわ、家でずっとゲームやってるとかクッソ陰キャじゃん」
「矢後さんはうるさいですよ」
「これもガチ勢じゃん……負けた……。フレンドになって、キャラ使わせて……で、たまにマップ戦とかしよ? 一孝もやってるから!」
「僕でよければ……」
一孝って誰だよ、と思いながら、伊勢崎とゲームのフレンドコードを交換した。
久森とゲームのフレンドコードを交換することで満足したのか、伊勢崎は御鷹を伴って城海区へと帰っていった。伊勢崎と御鷹と会うことで今日一日の体力を使い果たした久森は椅子に座って項垂れる。
「つ、疲れた……。死ぬかと思った……」
「伊勢崎に会ったくらいで死ぬかよ」
「陰キャにはキツイですよ、あれは。あの二人のキラキラ含有量はもはや致死量です」
「……キラキラってなんだよ」
久森のなかなか不思議な発言に矢後が訝しむ。
「こう、なんですかね……ああいうイケメンが発するオーラみたいなもんです。伊勢崎さんもですけど、御鷹くんなんかすごかった……。顔だけじゃなくて性格までいいとかチート級ですよ。こんな僕相手に「晃人くんで良かった」とか言い出すあの優しさ……あれで落ちない女はいないと思います」
「そーかよ」
久森の説明をどうでもよさそうに聞き流す矢後の顔をじっと見てから久森はホッとしたようなため息を吐いた。
「僕の先輩が矢後さんで良かったなぁ……。あんな人たちに囲まれたら、命がいくつあっても足りないですよ」
「どういう意味だ、コラ」
心からの久森の一言であったが、矢後としては遠回しにお前はイケメンではないと言われているようなものである。
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