星(御久)

満天の星空というほどではないが、東成都でも星はそれなりに見える。
そもそも、西エリアの真芝区で生まれてから、修学旅行ぐらいでしか東成都を出たことがない久森は空いっぱいに広がる星空など見たことがないのだが。彼にとっての星空は東成都のそれだった。
自室の窓を開けて、息を吐くと夜の闇にふわりと白いもやが浮かび上がる。春先とはいえ、まだまだ夜は寒い。冷たい指先に息を吹きかけると一瞬だけ温かくなったがまたすぐ冷たくなってしまう。
「晃人くん」
背後から聞き慣れた優しい声が聞こえて、肩に毛布を被せられる。寒かったのでちょうどよかった。
「御鷹くん……」
「まだ寒いし、風邪ひくよ?」
振り返ると星に負けないくらいキラキラしている御鷹が微笑みながら温かそうな湯気を立てているカップを差し出してきた。この匂いは彼が得意なカフェオレだ。
「ありがとう」
カフェオレのカップを受け取ると冷たい指先が一気に温かくなった。カップがふわふわ浮かぶ白いもやの中に顔を突っ込んで、ふうふう息を吹きかけてからそれを啜る。御鷹の心根を表すかのようにほんのり優しい甘さが冷えた五臓六腑に染み渡る。「寿史のカフェオレはとても温かくておいしいんだよ」と透野が常日頃言うだけあって、心まで暖まりそうだ。
「少し甘さは控えめにしたんだけど……おいしい?」
久森の隣に寄り添いながら、御鷹が訊ねてくる。
「うん、おいしい。御鷹くんの心根を表すかのようなカフェオレだよ。なんていうか、味が優しい気がする。御鷹くんのカフェオレを飲むなんて、光希くんじゃない僕は御鷹くんファンクラブに埋められるかもしれない……」
「えっ、どこに? ……いや、俺のファンクラブなんてないから大丈夫だよ」
久森の言動に御鷹は困ったように笑った。それでも、王子様のような彼のことだ。白星学園の中でも王子様のように影で推されているに違いない。オタクというのはそういうものだ。なお、御鷹ファンクラブも御鷹についているオタクもすべて久森の妄想である。
「御鷹くんは寒くない?」
「大丈夫だよ」
御鷹はそう言うが、ピンク色のシャツに薄手のジャケットを羽織っただけの御鷹のファッションは寒そうだ。久森は片手で毛布を御鷹の肩にかける。
「一緒に入ろうよ。僕はもう少し星を見ていたいから」
「ふふ、ありがとう」
毛布の端を引き寄せながら、御鷹がはにかんだ。二人で一緒の毛布に入って、さっきよりもずっと距離が近い。今はもう温かいを通り越して頬が熱くなってきていた。それでも、今ここから離れたくない。
「……星、きれいだね」
「うん、そうだね」
久森は満天の星空をオープンワールドRPGでしか見たことがない。それに比べたら、東成都の星はまばらだ。
それでも、御鷹を身を寄せ合って、一緒に見るこの星空が久森にとって一番好きだと感じるのだった。

210516