2018.12.05公開。
未来視の回数制限がもうできなくなるじゃなくって、未来視が人間の範疇を超えないためのものだったらっていう設定で、やればやるほど未来視の力が強くなって、自分って人間なのかなって超絶悩む久森の話。
矢後くんがめちゃくちゃしゃべってて、読んでて恥ずかしくなってきた……!!!(今はそんなにしゃべらない印象
幼い頃、寝ると必ず明日の晩ごはんを夢に見た。好きなものが夢に出ると一日ウキウキしたし、嫌いなものが夢に出ると一日嫌だなあ、という気持ちでいっぱいになった。
その頃は未来視の能力を制御できなくて、手を握るだけで友だちにこれから起こることが視えてしまっていた。初めは好きだったのに、いつの間にかこの能力が嫌いになっていた。
久しぶりに予知夢を見た。これまで見たことがない光景だから、予知夢で間違いないはずだ。
「まさか、予知夢まで復活してしまうとは……」
ベッドの上で項垂れながら、ため息を吐く。未来視を使うのは一日三回までと決めて、制御できるようになって、やっとここまで弱まってきたと思ったのに。ここ最近、戦いが激化していて、三回ギリギリまで使うことが多くなって、また能力が強まってきている。
(でもこれ、指揮官さんや神ヶ原さんに言わないとまずいよな。大型イーターが出るってことだし)
予知夢の内容は白星の管轄である城海区に大型イーターが出現するというものだった。優秀な白星のヒーローたちは難なく倒すのだが、前線の武居さんが負傷する。こんなところだった。
報告することで武居さんの負傷は避けられるかもしれないし、言う以外の選択肢はない。
「いやー、助かったよ。お陰で武居くんも怪我せずに済んだし!」
僕の言った通り、城海区にイーターが現れた。気をつけてくれていたお陰で武居さんも負傷を免れたようだ。
神ヶ原さんと指揮官さんには今感謝されているが、さっきは志藤さんたちにも感謝された。
僕の予知夢でここまで感謝してくれるのは有難いのだが、僕としては予知夢を見たこと自体、あまり嬉しいことではない。
触れたものの未来が多少見られるくらいだったものが、最近では一時間後くらいまで見られるようになっている。交戦中や探索中は重宝するのだが、力が強まるごとに自分が人間からかけ離れていくようで嫌だった。
ALIVEの指揮官執務室を出ると何か怪しげな機械を持った崖縁の浅桐さんに出くわした。
「その未来視、どういうギミックでできてるのか、実に気になるね。未来を視てるのは脳か? それとも目なのか?」
「浅桐さん……」
僕の顔や目を観察しながら、浅桐さんが首を傾げる。どうにも居心地が悪い。
「オレァ、お前みたいなモブには興味ねえがその能力には実に興味があんのよ。勿論、お前の相方の不良の痛まねえ身体っつうのも気になるんだがな。揃って解体でもして、調べてみてえところなわけよ」
「はあ……。僕や矢後さんを解体したって解らないと思いますけど」
僕の未来視も矢後さんの痛まない身体も生まれ持ったものである。きっと解剖したところで身体のつくりは普通の人間と変わらないだろう。痛まないながらも矢後さんは普通に怪我をしているし。きっと解らない。本人すら解らないのだから。
「ねえねえ今解体って言った? ボクもその話、混ぜてー!」
やたら元気のいい声が割り込んできて、思わず肩が跳ねる。愛教学院の倫理くんだった。彼はあまりに突飛押しもない言動が多くて、正直あまり絡まれたくない。これは浅桐さんもなのだが。
「おう、北村。久森が死んだら、死体を解体して、未来視についてよく調べさせてくれるって話をしていたところだ」
「あの、そんな話してないんですけど……」
「なーんだ。うっかり久森サンが矢後サンを殺しちゃったから解体して埋めたって話かと思ったのに」
「いや、矢後さん普通に生きてるし、勝手に僕を殺人犯にしないでくれるかな……」
なーんだ、つまらない、と言って、倫理くんは口を尖らせる。相変わらず、恐ろしいことを言う子だ。
「未来視の話をしてたんだよ。脳か、目か、どっちが視てるんだろうって」
「ふーん、そういう。でも、ボクも気になってた。どういう風に視えてるのかなって。ちょっと普段と違ったりするの? セピア色だったりとか」
「普通だよ。フルカラーだし。映像で視えるときはチャプター再生でもしてる感じかな。あと、ちょっと早送り気味。その場の気配だとか、特徴的な音とか、臭いだけするときもあるけど」
倫理くんに訊ねられて、改めて未来視について考えてみる。改めて考えてみるとやっぱり状況によって違う。
「ふーん。でも、久森サンって、世界がどういう風に見えてるのかなって思うよね。未来も視えると、他のものの見え方も違ってきたりするのかなって。ボクたちがフルカラーだったら、久森サンだけ少しだけその色がくすんでたりするのかなって思うときあるよ」
「いや、僕は普通だよ。単に未来が視えるっていうだけで……」
「そう思ってんのはお前だけだったりしてなァ」
ヒヒッ、とヒーローというより悪の科学者じみた笑いを浮かべて、浅桐さんがなんだか不穏なことを言う。
「オレからしてみりゃあ、医者の言う余命をぶっ壊し続けてる矢後も、未来が視える久森も歩く超常現象ってところなわけよ。何にでも興味を示しちまう天才科学者としちゃあ、気になって仕方ねぇ。何より笑っちまうのが、お前も矢後も同じ回答するところだよな。自分は普通だって。お前らの言う普通ってモンはなんなんだろうなァ……」
浅桐さんにまくしたてられて、打ちのめされる。ちょっと未来視のことで悩んでいたから余計に。
「まあ、僕も矢後さんも生まれたときからそうだっただけで、なりたくてなったわけじゃないですから……。矢後さんはどうか知らないですけど、僕は未来視の能力のない、平均並みの、本当に普通の人間になりたいです」
「確かに、テメェは未来視以外はただのモブにしかすぎねぇからなァ……」
「あ、矢後サン専属の介護士って感じだよね! あと、矢後サンっていう舅の世話を見させられてるお嫁さんって感じ! サスペンスによくあるよね!」
「うわ、どっちも嫌な称号だなぁ……。あと、なんでそんなに無駄に設定が細かいの……? せめて男にしといてくれないかな……」
「久森サンってたまにすっごい疲れた顔して寝てる矢後サン見てるよねー。ボク、その顔好き」
「……そう。あ、僕そろそろ戻りますね」
二人に一礼してその場を後にする。倫理くんの元気な「バイバーイ!」という声が聞こえた。
普通って一体何なんだろう。ふと、疑問が湧く。もし、未来視の能力がなかったら、僕はどう生きていたのだろう。もっと明るい性格で、積極的に人と関わったりしていたんだろうか。
(いいや、どんな生き方をしていても、僕は僕なんだろうな)
カードショップのデュエルスペースやゲームショップにだって、僕と同じような日陰者はいる。その人たちみんなが未来視の能力を持っているわけではない。きっと、未来視の能力がなくても、そういう中の一人として僕は生きているのだろう。未来視の能力のない僕も結局は日陰者なのだ。
また予知夢を見た。この一週間連続だ。着実にこの力が強まってきている。今日の予知夢は江波区の八草川に大型イーターが出現するというものだった。明日休みなのにちょうど風雲児の管轄地域でちょっと嫌だ。戦っているのは僕と矢後さんの二人きりで、まあまあいつも通りだ。前線で矢後さんが暴れて、後衛の僕が後ろから邪魔にならないように矢後さんの仕留め残しを始末したりしてサポートをする、いつもの戦い方だった。
ベッドの上でツンと痛む頭を押さえながら、枕に顔を埋める。頭痛は徐々に収まってきて、やっと顔を上げた。この痛みまで幼少期と同じだ。もう痛むこともないと思っていたのに憂鬱だった。
またこれも指揮官さんと神ヶ原さんに報告しなければ。重い腰を上げて、制服へと着替えた。
予知夢通りの戦いの後、僕と矢後さんは八草中央病院にいた。別に怪我をしたわけではない。戦いの後で薬を切らした矢後さんが発作を起こして病院に搬送されたのだ。予知夢通りだった。
「チッ、また入院だとよ」
「僕、戦いの後で発作起こすから薬は切らすなって言いましたよね」
「聞いてねぇ」
「おう、って返事してたじゃないですか」
一緒に救急車に乗ってきた僕もついでに手当てをされて、強く打って腫れた手首に包帯を巻かれ、頬の切り傷に絆創膏を貼られた。僕の怪我自体は大したことないのだが、矢後さんが脱走しないよう、見張っているようにいつもの怖そうな看護師さんに仰せつかってしまった。ああ、せっかく明日は休みだから夜中までゲームをするつもりだったのに。
「ていうか、薬切らすってどういうことですか。自分の身体のことは自分がよく解ってるんでしょう? いつもいつも目の前で死にそうな咳してるの見せられる方の身にもなってくださいよ」
「うるせーな。視えてたなら大丈夫だろうが」
「視えてたって変わることだってあります。ていうか、矢後さん。この前もポケットに穴開いてるから、リンクユニット入れ替えろって言ったのにやらなかったですよね」
「こまけえことばっかり覚えてんな、お前」
「命知らずな戦い方されるのも、死にそうな咳されるのも、本当に死ぬんじゃないかってめちゃくちゃ怖いんですからね。もう絶対やめてください。怪我は痛くないんでしょうけど、苦しいのは苦しいんでしょう? いつも死にそうな顔してるし」
「なんだ、心配してくれんの?」
「……目の前で死なれたら後味悪いじゃないですか。僕、昔からそういう体験多いんで」
「あっ、そう」
興味を失ったとばかりに矢後さんがごろんと寝返りを打って、向こうを向いた。このまま寝てくれれば楽なのだが。そう思いながら、私物のリュックからスマートフォンを取り出した。
時計の針が回りに回って、すでに午前三時を指していた。しばらく熟睡していた矢後さんが突然目を覚ました。テレビ台にあるデジタル時計で時間を確認してから、呆れたような顔で僕を見る。ちなみに僕はまだ一睡もしていない。
「……お前、何時まで起きてんだよ……」
「見張っとけって言われてるんで……」
「寝ろよ」
「僕が寝たらその間にベッドから抜け出すつもりですよね……。今日は寝ません」
そうは言ったものの、正直、見張りは半分くらいどうでも良かった。僕が寝てようが、起きてようが、勝手に矢後さんは脱走するはずだ。それを解っているのか、怖そうな看護師さんも点滴を変えに来たときに僕にベッドをすすめてくれた。
それでも寝ないのは、今日もまた予知夢を見てしまうかもしれないからだ。予知夢を見るのも嫌だし、目覚めて頭が痛いのも嫌だ。僕は普通じゃなくてもある程度人間でいたい。
「本当はそんな殊勝なこと考えてねえって顔してるぞ」
「そんなことないですよ」
「寝たくねえって顔に書いてある」
「矢後さんに見破られるの、なんか嫌だなぁ。でも、当たりです。寝たくありません。ていうか、視たくないんですよね。予知夢。頭痛くなるし」
「そういうもんなのか」
「そういうもんなんですよ。ていうか矢後さん、早く寝ません?」
「お前のせいで目が覚めちまった。また眠くなるまで付き合えや」
「えー……僕、今めちゃくちゃイベント走るので忙しいんですけど」
「んなもん、片手間でできんだろ」
まあ、単調作業だから片手間でできるのは確かだ。仕方なく、矢後さんに付き合うことにする。
「お前は今、未来視でどれくらい先まで視られる?」
「いきなりそれですか。今だと結構伸びて一時間くらい先まで視られるようになりましたね。毎日限界ギリギリまで使ってますから。すっごく不本意ですけど。たまに予知夢も視るようになりましたし。これからも伸びるでしょうね……」
「お前が視る予知夢や一時間先に俺がいるなら、俺はまだ死なねえってことか」
「そうですね。僕が矢後さんを視失わない限り、僕の未来視もある程度の矢後さんの生命の保証になってますかね」
「あー、やっぱり、お前といると寿命が延びるわ」
「自分自身で死亡フラグ何本もへし折っておきながら何言ってるんですか……。戦場では頼りになるんですから、生きててもらわないと困りますよ。矢後さんが死んで、一人で江波区を任されることになんてなったら、僕、ヒーロー辞めますから。今だって背負いきれてないのに、潰れちゃいますよ」
元々ヒーローなんてガラではないのだ。単に矢後さんに無理矢理、こちらの世界に引っ張り込まれただけで。だが、実際そのときになったらどうなのだろうか。
「そういえば、矢後さんはもし自分が普通の人間だったらって考えたことあります? 矢後さんだったら、気管支の病気がなくて、痛みを感じることができる身体ってことになりますね」
「あ? あんまり考えたことねえわ。俺にとっちゃ、これがフツーなもんでな。病気がねえのはいいけど、怪力が出せねえのは不便だな。喧嘩が弱くなりそうだ」
「なるほど、そういう考え方がありますか……。でも、痛みを感じてても矢後さんは一緒な気がします」
「久森、お前はどうなんだ」
「僕は普通になりたいですね。未来も視えない、ヒーローでもないただの高校生になりたいです。でも、普通っていうのが実は分からないんですよね。僕にとって、未来が視えるのが普通ですから。普通の人がどういう風に生きているのか、世界をどう見ているのか、分からないんですよね。未来視がなかったら、多少明るくなったりするのかな? って考えたりはしますけど」
「お前のその陰気なところは変わらねえだろ」
「自分でもそう思ってるんで、はっきり言わないでくださいよ」
僕がはあ、と深いため息を吐く。
「正直、自分が人間なのか?って悩んでました。普通、未来なんて視えないじゃないですか。浅桐さんから、お前らは歩く超常現象だ、なんて言われちゃうし。なりたくてなったわけじゃないのに」
「確かになりたくてなったわけじゃねえなあ。でも痛まねえ身体って便利だから俺はこれでいいわ」
「矢後さんはそうだと思ってました……」
「視えても視えなくても変わらないなら、お前にとって、未来が視えるのが普通、それでいいんじゃねえの? んな能力、うっかりゲットできてラッキー程度に考えときゃいいんだよ。戦いではめちゃくちゃ役に立つわけだしよ」
「そこまで割り切れたら、ここまでモヤモヤしないですよ……。ていうか、矢後さん、今日はえらくしゃべりますね。いつもなら、だるい眠いって言って、寝てるところなのに」
「んなこと言うから眠くなってきたわ。おやすみ」
矢後さんはふああ、と欠伸をすると電池が切れたかのように寝息を立て出した。お陰で僕まで眠くなってくる。
――― お前が視る予知夢や一時間先に俺がいるなら、俺はまだ死なねえってことか。
寝ちゃダメだと頬を抓った矢先、矢後さんの一言を思い出した。理想のヒーローみたいな大それた信条はないが、僕が視る未来で救われる人間がいるのなら、未来を視ることも、その精度や範囲が広がることも悪いことではない気がして、僕も目を閉じることにした。
181205
