八重歯

矢後くんの八重歯はかわいい。


 
 
「あ」
 
 大きく開かれた矢後の口腔内には白い歯がまあまあきれいに並んでいる。しかし、両角に鋭い犬歯が矢後の凶悪さを主張するかのように生えていた。
 萌黄はなんとなく、指でその犬歯をくすぐる。何か言いたげに睨みつけてきたので、指を噛みちぎられないうちに引っ込めた。
「いきなり何?」
「いや、八重歯が生えとるな、と思って」
「お前ほどじゃねーよ」
「確かに……」
 萌黄の八重歯は矢後のそれより鋭い。そもそも歯並びもあまりよくなかった。
「俺、それ舐めんのけっこー好き」
「はあ、またなんで?」
「お前がおもしれー顔すんのがおもしれーから」
 そう言って、矢後がずいっと顔を寄せてきた。そのまま目を開けたままキスを仕掛けてくる。
「いや、目開けたままは怖いやろ!」
「じゃあ、お前が目つむってたらいーじゃん」
 そう言われて、固く目を閉じる。矢後の舌が口の中に入ってきて、尖った八重歯をなじる。つい、気持ちが良くて矢後の肩を掴んだ。
 高校生に負けるわけにはいかない。萌黄も少し身を乗り出すと舌を矢後の口の中に入れて、尖った数本の犬歯をなじる。効果がないのはわかっているが、なじるのが好きなのでなじった。
 その気になったらしい手が萌黄のシャツの中に入り込んでくる。脇腹を撫でられた後で乳首をいじられて、喉の奥で声が出る。
「こ、こら……」
「あはは、歯いじられたくらいでその気になってるくせに何言ってんの?」
 矢後に笑われて、自分の股間がその気になっていることに気がついた。
「なあ、せっかくだから遊ぼーぜ」
 シャツの上から肩を噛まれる。食い込むその犬歯も好きだった。
 
 
 一九〇八三一