寿史くん、メダルあげます

200301公開
登場キャラ:ほぼ全員
光希くんが御鷹に折り紙のメダルをあげる話


 夕方五時のテレビには国営放送の子供番組が映っていた。画面では歌のうまいお兄さんとお姉さんが子どもたちと手遊び歌を歌って、遊んでいる。
 お兄さんとお姉さんや隣の友だちと楽しそうに遊ぶ子供たちを光希は食い入るように見ていた。
「萌黄さん、あれ、楽しそうだね」
「光希、それ、いくつが見る番組やと思ってるん? 幼稚園児くらいやで」
「そうなんですか? みんなでやったら楽しいかなって思ったんだけど……」
 三歳児向けの番組を真剣に見ている光希を見て、萌黄が苦笑いを浮かべた。
「ワシは甥っ子の面倒見てるときによう見とったなあ。もちろん、ワシが小さい頃も見とった」
「そんなに昔からあるんですね」
 手遊び歌の時間は終わったのか、今度は楽しげな映像と共に歌の時間が始まる。しかし、少し映像が古めかしい。歌声は冒頭にできてた男女のもので最近録られたものだった。曲調がコミカルでなかなか面白い歌だった。
「うわ、これ懐かしいな。ワシが小さい頃にもあったわ」
「古い歌をずっと歌ってるの?」
「いや、昔から歌い継がれてる歌もあれば、ワシの知らん新しい歌もあるなあ。あ、これは甥っ子が小さい頃に流れてた曲やな」
 次に流れ出したのは「メダルあげます」という歌だった。画面に映った男の子が太陽やお弁当箱、レールや地球に様々な理由をつけてメダルをあげている。何より、光希の興味をひいたのは「おかあさん、メダルあげます」という部分だった。お母さんにメダルをかけた男の子がお母さんに抱きしめられている。
「僕もみんなにメダルあげたいな」
 人から人にあげていいのなら、光希にはたくさん、メダルをあげたい人がいた。ヒーローのみんなに萌黄や神ヶ原、寮母さん、クラスメイト、住まわせてくれている御鷹家の両親や兄弟……でもやっぱり、光希が一番メダルをあげたいのは寿史だった。
「はは、ええんちゃう? 折り紙にあるやん。メダル。ワシも幼稚園の頃、もろたわ。まあ、幼稚園の頃やからなあ……」
「なるほど、折り紙で作ればいいんだ。よし、今から作ります」
「なあ、お前ホンマに高校生か?」
 善は急げとばかりに光希はカバンから折り紙ケースを取り出すと静かにメダルを量産していった。

 今日は星乃の会食でずいぶん遅れてしまった。いつもながら、上級国民と腹を探り合うような会話をするのはだいぶ消耗する。家にいても息が詰まるから、本当ならこのまま実家に帰るところなのだが、運転手に無理を言って、合宿施設まで送ってもらった。早く白星の仲間たちや、久森や斎樹と他愛もない会話をしたい。寿史にとって、それが一番の回復方法だった。
 灯りが落ちた玄関を通り抜けて、談話室に入ると出会う仲間がみんな、折り紙のメダルを持っていた。青色のメダルを机に置いて、スマホゲーに励んでいた久森に声をかける。
「ねえ、晃人くん。そのメダルは?」
「光希くんがくれたんだ。僕は『たくさんゲームのことを教えてくれました』だって。ちょっと子どもっぽいけど、何だか嬉しいな」
「光希が……?」
 和やかに笑う久森の足元では定位置で眠っている矢後がいた。その手元に黄色いメダルが置いてある。メダルには光希の字で『今日も元気に生きました』と書いてあった。彼は矢後を何だと思っているのだろう。
「寿史、光希に何吹き込んだ? おかしなメダル配り回ってやがる」
「『みんなをまとめて頑張りました』だってよ、粋なことすんな」
「オレのは『たくさん遊んでくれました』だった! 一孝は?」
「『たくさん鍛えてくれました』だとよ。なんだここは幼稚園か? わけわかんねえ。寿史ならなんか知ってんだろ?」
 一孝、正義、敬が訊ねてくるが一切覚えがない。
「いや、俺は知らない……ちょっと訊いてくるよ」
 すぐに光希に会いたくて、寿史は小走りに光希の部屋に向かう。
 途中で頼城と斎樹に出会った。頼城は藤色、斎樹は青緑のメダルを持っている。
「あの、紫暮さん、巡くん、それはやっぱり……」
「ああ、透野少年だ! 『たくさんお仕事を頑張りました』と言われて、もらった。当たり前のことだが、改めて言われると嬉しいものだな」
「俺は『たくさん勉強を教えてくれました』だった。ハハ、こういうものはヒーローショーの後で幼稚園の子どもにもらったことがあるな……」
「一人一人を表彰したいと思う気持ち、十分に伝わった! 透野少年がこんなにも清らかな心を持っているのは御鷹、お前の教育がいいのだろうな。透野少年の純粋な気持ちに応えるため……この頼城紫暮が純金のメダルを透野少年に贈ろう……気持ちが伝わるよう、とびきり重いやつだ!」
「やめろ!」
「いや、遠慮します……」
 やたら重い頼城のお返しを断ってから、寿史は再び光希の部屋を目指す。
 その途中で今度は戸上、佐海、三津木の崖縁の三人に出会った。やっぱりみんな、メダルを持っている。
「あの、やっぱり……」
「ああ、透野だ。『たくさん守ってくれました』だそうだ」
「俺は『たくさん練習頑張りました』です」
「僕は『たくさん仲良くしてくれました』でした。なんだか照れくさいですね」
「ハア……光希、メダルをみんなにあげてまわってるんだね……」
「別に俺たちは迷惑していない。それに人に感謝の気持ちを伝えるのはいいことだ。透野がこういうことができるのも、寿史の教育がいいからだろうな」
 頼城と同じことを言って戸上が笑う。しかし、光希が幼稚園児よろしく折り紙のメダルを配って回るのは少し恥ずかしかった。
「そういえば、光希くん、部屋で御鷹さんのこと、待ってるみたいでしたよ」
「早く行ってあげてくださいよ」
 三津木と佐海に促され、三人に別れを告げてから、やっと寿史は光希の部屋の前に辿り着いた。コンコン、と静かにノックをすると光希の返事が聞こえてくる。
「寿史くん、だよね? 入ってきて」
 どこか嬉しそうな光希の声。ドアを開けて、部屋に入ると光希はドアのすぐ近くに立っていた。後ろ手に何かを隠している。
「ねえ、寿史くん。ちょっとかがんで」
「こうかな?」
 光希の言う通りに寿史が少しかがむと青いリボンの金ピカの折り紙でできたメダルを首にかけてくれた。
「光希、これは……」
「寿史くん、メダルあげます」
「え?」
「あなたは今日も、たくさん笑顔をくれました」
「光希……」
「いつもありがとう、寿史くん」
 ニコッと微笑む光希を見て、寿史は一瞬きょとんとしたがすぐに笑顔になる。きっと光希が欲しいのはこれだ。
「ねえ、光希。俺からも光希にメダル、あげてもいい?」
「寿史くんがくれるの? 僕は何もしてないよ?」
「光希はたくさん、俺にしてくれてるよ。光希がわかってないだけで」
 今度は光希がきょとんとしている。光希にメダルをかけてもらった途端、今日の疲れが吹き飛んだのだ。
 寿史も光希にとびきりのメダルをあげたいと思った。

200301