191219公開
甘々ワードパレットより
「舌先」「ほんの少し」「手を添える」
怪我をした矢後の治療をする萌黄
また矢後が顔に痣を作って帰ってきた。顔の痣だけでなく、身体中傷だらけで擦り傷や切り傷、痣と傷のバリエーションだけは豊かだった。どれだけたくさんの傷をつけられるか、コレクションでもしているのだろうか。
どうせまた、ヤンキーたちと共に他校へカチコミにでも行ったのだろう。ヒーローとしてそれはどうなのだ、とも思うのだが、萌黄の持論は『ヒーローは血性があって、イーターをたくさん倒してナンボ』なのでそこに対する文句は言わない。そういうのは頼城の仕事だ。
「一体どういう生き方をしとったら、そういう風になるんや?」
「うるせーな」
佐海や久森といったお節介焼きのメンツもおらず、仕方なく指揮官自ら、矢後の傷の治療にあたることにした。
指揮官執務室まで矢後を連れていき、ソファに座らせた。書類に混じってラックに置いてある救急箱を持ってきて、手当を始める。まずはティッシュに消毒液を染み込ませて、顔の痣を拭ってからガーゼをサージカルテープで貼り付けた。
「ハ、お前もたいがいに雑だよな」
「あ?」
せっせと治療をしてやっているというのに矢後が鼻で笑ってくる。思わず顔を上げた。
「ティッシュでやってくんの、ホント雑」
「は? 別にティッシュでええやん」
「まー、そーだけど。久森とか佐海とかはてーねーに脱脂綿でやってくっから、お前見てると雑だなって思う」
「あの辺の几帳面連中と一緒にすな。そもそも、お前なんかティッシュで十分じゃ」
腕についた切り傷を雑にティッシュで叩くとまた矢後が笑った。
「ティッシュもいらねーよ。んな傷舐めときゃ治る」
「ふーん、舐めときゃねえ」
矢後の腕についた傷をよく眺めてから、れー、とほんの少しだけ、舌先で触れてみる。綿菓子を舐める要領である。
さすがにそれは想定外だったようで、矢後が少し引いている。
「うわ……お前、何やってんの」
「え、舐めときゃ治るんちゃうん?」
「気持ち悪……」
「ははは、今更やろ。ワシがどんだけお前のことを舐めとる思てんねん」
情事の際は定番の乳首に始まって、顔のほくろどころか顔中、腹筋、その他もろもろ……色々舐めた気がする。腕の傷口なんてもはや今更である。
(でも、ホンマはもっと丁寧に扱ったらなあかんのかもしれん)
相手はヒーローとはいえ、高校三年生である。子供とも、大人とも言えない年頃だ。身体中に傷を作って帰ってくるなんて子どもだな、と思うこともあれば、時折、大人でもはっとするようなことを言うときもある。なんとも難しい。
しかし、矢後自身は好きに生きているので勝手に難しく考えているのは萌黄だけだろう。萌黄のことなど毛ほども想っていない。自分ばかりが矢後に感情を向けているのが何だか悔しい。
「お前はええやんなあ」
「は?」
怪訝そうにしている矢後を尻目に、手を添えて、傷口をそっと撫でた。
191219
