きみがすき

200313公開
3/13の御久の日に合わせてうpしたもの
二人で深夜のコンビニに行く御久


 俺は晃人くん、君が好きだ。

 俺の知らないことを教えてくれるから。
 俺の知らない景色を教えてくれるから。
 俺の知らない生き方を教えてくれるから。
 俺に対して、キラキラとか、眩しいとか、不思議なことを言うことはあるけど、やっぱり君という人間が好きだ。
 けれど、君は普通の男の子だから、きっと俺のことを好きになってくれないんだろうな。

「月が明るいね」

 月がよく照らしてくれているお陰か、夜の割に外は明るい。隣を歩く久森のこともよく見える。
 すでに時計は日付が変わっていたが、御鷹と久森は合宿施設を出て、コンビニに向かって歩いていた。いつも寝る時間よりもずっと長く起きているから、御鷹は少しワクワクしていた。前の夜間任務のときもそうだった。あのときは斎樹も一緒だったが、今日は久森と二人だけだ。以前とは違い、今日は少しドキドキする。
「ごめんね、僕の買い物に付き合ってもらっちゃって……。あの一番くじ、なかなか引きに行く暇がなくて……」
「大丈夫だよ。晃人くん、一人で行くのは危ないからね」
「うーん、僕も男なんだけどなあ……」
「ふふ、冗談だよ、俺もちょっと夜の気分転換がしたかったんだ」
 取り繕う御鷹の言葉に久森もそうだよね、と微笑んだ。冗談と言ったものの、一人で行くのは危ないと思ったのは半分くらい本当だった。それでも、二人とも男である以上、御鷹にとって久森は守らなければならない対象ではない。世間一般ではそうだ。久森への想いを隠している以上、世間一般の意識に合わせなければ。
 しばらく歩くと一番近くのコンビニにたどり着いた。例の一番くじをやっている店舗だ。さっそく一番くじを買いに行った久森を微笑ましげに眺めてから、御鷹もコンビニ内を見て回る。深夜のコンビニはやっぱり人が少ない。ハゲたおじさんがエロ雑誌のコーナーで雑誌を吟味していたりするくらいだ。一番くじのカードを店員に渡した久森の「六回、お願いします!」と叫ぶ声がよく聞こえた。驚いたおじさんも振り返っている。
 晃人くんは好きなことが関わると本当に元気になるなあ。勝手に微笑ましく思いながら、御鷹はパンコーナーに置いてあるドーナツを吟味した。ミセスドーナツに置いてあるものと同じ形のドーナツが袋に入っている。一番素朴なオールファッション。中にクリームが入ったエンジェルクリーム。黄色い砂糖がたくさんついたゴールドチョコレート。これらも同じようにおいしいのだろうか。どうにも決めかねて、御鷹は三つともカゴに入れた。晃人くんと食べるドーナツはきっとおいしいだろうな。ふんわりそう思って御鷹はレジに向かった。

「はあ……まさか、一番くじでも爆死するとは思わなかったよ……」

 久森が持っている袋の中には久森がよく遊んでいるゲームに出てくる女の子のクリアファイルが三枚とキーホルダーが入った箱が三つ入っていた。どれもだいぶ下の方の賞だ。
「まあ、ハズレがないタイプの一番くじだったからいいんだけど……この絵柄もかわいいし……」
「晃人くんは何が欲しかったの?」
「……やっぱり、A章のフィギュアかな」
「あの水着みたいな格好した女の子のやつだよね。かわいいよね」
「うん、かわいい。初期のSSRなんだけど、すっごく性能が良くて今でも使えるくらい強いんだ。それに、僕の端末で初めて来てくれたSSRだから、思い入れも強くて、欲しかったんだよね……」
 久森はそう言って、ため息を吐いた。女の子のキャラクターが好きなあたり、やっぱり久森も男でヘテロなのだということを突きつけられてしまう。
(やっぱり、俺の気持ちなんて、受け入れてもらえないよね……)
 クリアファイルの絵を見ながら、またため息を吐いている久森を見ながら、御鷹はひとり自嘲する。
 久森晃人は本人の言う通り、至って普通の少年だ。ゲームが好きで、女の子のキャラクターのためにコンビニで一番くじを引いて、その結果に一喜一憂してしまうような本当に普通で、善良な少年だ。きっと好きになるのは女の子だろう。その女の子とは百八十度くらい違う御鷹のことはきっと恋愛相手と考えてはくれない。
「今度、矢後さんにお金渡して買ってもらおうかな。結構引きいいんだよね、あの人……」
 久森のポツリと呟いた一言で矢後に嫉妬心が湧いた。
 矢後は久森にとって初めて来たSSRのようなものなのだろう。同じ学校に通っていて、久森にとって初めて出会ったヒーローで、久森をヒーローにした男だ。雑に突き放しながらも、何かと久森は矢後の面倒を見ている。きっと、御鷹は矢後にも勝てない。同じところにすら立っていないから、勝負すらできない。
 そもそも、久森も矢後もヘテロなのだ。そんな二人が惚れた腫れたの関係になるはずがない。まるで、独り相撲をしているかのようだ。勝手に嫉妬してしまった矢後に心の中で謝る。
「御鷹くん?」
「あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた。眠いのかな?」
「いや、こっちこそごめんだよ。もう眠い時間なのに連れ出しちゃったし!」
 御鷹の些細な返し方に久森は一大事だとばかりに謝ってきた。本当にいいのに。思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「ははは、大丈夫だよ。そうだ、帰ったら、一緒にドーナツでも食べようか。三つも買っちゃったから……。これで爆死の傷、癒えるかな?」
「ありがとう、御鷹くん。でも、今はその優しさが逆に傷に染みるよ……」
「えっ、どうして……」
 はああ、と一層大きなため息を吐いた久森を見て、御鷹は思わず目を見開いた。こういうときの久森はどうにも扱いが難しい。
 でも、御鷹はそういうところも含めて久森が好きだった。
「御鷹くん、僕なんかといて、楽しい?」
「え? 俺は晃人くんと一緒にいて、楽しいよ」
「そう、よかった」
 突然、久森から投げかけられる不思議な質問に答えると彼は本当にほっとしたように笑っていた。

「……早く帰って、ドーナツ食べよう」

 僕は御鷹くん、君が好きだ。

 僕とはまったく違う世界で生きているから。
 僕とはまったく違う景色を知っているから。
 僕とはまったく違う育ち方をしているから。
 どうしても、そういう君に僕は惹かれてしまう。
 けれど、君は僕にはとても眩しすぎるから、きっと僕は君とは釣り合わないんだろうな。

 俺は、晃人くんのことが好きだ。
 僕は、御鷹くんのことが好きだ。

end