「甘々文字書きワードパレット」より。
指揮矢がちゅーしてる話。
「別に全部が全部わかんねーわけじゃねえ」
さっきまでキスをしていた唇をグイッと袖で拭いながら、矢後が口を開いた。袖をさらっと拭われたのは地味にショックだが相手が矢後なら仕方ないと思う。
「お前はワシに失礼やなあ、とか思わんのか……まあええわ。矢後にとって、キスってどんな感触なん?」
「柔らかい、とかはなんとなくわかる」
「アラサーの唇が柔らかいんか……」
対して健康的に生きているわけではないアラサー男の唇は果たして柔らかいのだろうか。いささか疑問を抱くが、矢後も自分もお互い以外キスをした相手などいない。比べようがなかった。
「ならもっと教えてや。矢後がどんくらいわかるんか」
「ん」
萌黄が言うと矢後が目を閉じて、唇を突き出してくる。いつも目を開けたまま、容赦なくキスをかましてくると言うのに一体どうしたというのだ。
「えっ、どないしたん……? 変なもん食べた?」
「目ぇ開けてっと、ムードねーから嫌って言ったのお前じゃん」
萌黄が少し引いたように訊ねると矢後が呆れたような視線を向けてくる。なるほど、前自分が言っていたことを覚えていてくれたらしい。あの、矢後が。
「よう覚えとってくれたな。ワシも忘れてたのに」
「オトナになると自分が言ったことも忘れんのかよ」
「オトナ言うんはそう言うもんや。いやー、かわいいな、ホンマ」
相手はヤンキー高校の大ボスでかわいいから程遠い存在のはずなのに、こうもかわいいことをされるとかわいいな、と思ってしまう。
しかし、言われている本人はあまり快くないらしく、また呆れられてしまう。
「俺のことかわいいなんて言うのお前くらいなもんだろ」
「ええやろ、別に」
「変なやつ」
まだ呆れている矢後の肩を掴み、またキスをする。不意打ちで一瞬目を丸くしていたが、やられっぱなしは嫌なのか、挑発するように舌を絡ませてくる。ぬろぬろと熱い、小さな肉の塊が絡まる。肩を掴んでいた手を離して、なんとなく矢後と指を絡ませる。
矢後と自分の息遣いをどこか他人事のように感じながら、後でまた、このキスの感想を聞こうと思った。
190906
