祭り

2019.05.11公開。
ワンライ参加作品。お題は【祭り】
なお、祭り感はまったくないもよう。
風雲児の喧嘩トーナメントについて書きました^^

  バキッ、だのボゴォッ、だの物騒な音が校内に響き渡る。月に一度、必ず行われる風雲児高校の祭、喧嘩トーナメントである。不良たちは正直、約束を守らない一般人よりも律儀だ。毎月、保健室の先生はすごく大変なんだろうな、と内心同情しながら、巻き込まれないようにそそくさといつもの脱出ルートに向かう。
 「ナックルの使用は禁止」「病院送りにはしない」「必ず一対一で行う」など不良内でルールがあるらしい。喧嘩トーナメントが一騎打ちなら、集団で行う喧嘩は合戦といったところなのだろう。不良は侍か何かか。まあ、正直どうでもいいのだが。
 「副長もどうスかァ?! 参加してくださったら、みんなの士気も上がると思うんスよね!」と昼休みに熱烈に誘われたが、「僕が出ても秒でやられるだけなんで」と丁重にお断りした。リンクユニットを割れば、まあまあいけないこともないのだろうが、無為に他人と殴り合ってどうするというのだ。喧嘩なしで生きていけない矢後さんはともかく、僕としてはない方がいい。みんなそこまで闘争心が有り余っているのなら、ボクシングでもすればいいのに。
 矢後さんも物騒な音がするとまるで祭り囃子を聞いた江戸っ子のように騒ぎ出す。喧嘩は祭か。けんか祭りなんてものも存在するくらいだから、まあ似たようなものなのかもしれない。

(あれも喧嘩みたいなものだったのかな)

 美術室の窓の前で上履きから靴に履き替えながら、ぼんやり回想する。
 この間、僕がナンバー2だということに一人の候補生が異議を唱えた。
『ケンカから逃げ出すような奴がどうしてナンバー2なんスか! 俺は認めないッスよ!』
 僕の能力を知らない彼は僕と同じ二年生で隣のクラスだった。矢後さんがどうして僕を隣に置いてるのか、なんて僕も分からない。本人曰く、「未来視が便利だから」とのことだが、僕が視なくたって、異常に幸運なあの人はそれなりに生きていける。たまーに僕が気づかないと死ぬ展開だってあるから、まあまあ寿命は縮まるのだろうが。
『じゃあ、そいつをテメェで蹴落としてみろよ。ヒーローとしてな』
 アイマスク代わりにしていたヘアバンドを引き上げながら矢後さんがそう言ったのは、僕が彼に同調しようとしたところだった。蹴落とされるの大歓迎な僕としては願ってもないチャンスだ。僕は目をキラキラさせながら「やりましょう!」と言った。当然彼もノリ気だった。
(なんで勝っちゃったんだろうなあ、僕)
 物騒な音が響き渡る学校を出て、下校しながらため息を吐く。
 結果から言えば、彼は弱かった。終わった後、「本気でやれよ」と矢後さんに威圧されたが、未来視なしでも勝てる相手だった。不良のケンカをよく目にするせいか、不良の行動パターンはある程度読める。彼の動きはまさにその不良の行動パターンだった。
 「ナマ言ってすみませんしたァ!」と彼には土下座して謝られたが、まあ確かに期待はずれだった。せっかく副長の座を他人に明け渡すことができると思ったのに。
(いつか誰かが、僕のこと、蹴落としてくれればいいのに)
 喧嘩トーナメントという祭りはきっとまだ続いている。今参加している誰かが、また僕を蹴落とそうと挑んできてはくれないだろうか。

190511