あいつだけは許さない絶対に

2019.01.05公開。
ワンライ参加作品。お題は【好きなもの、こと】
ゲームに本気を出しすぎてブチギレてしまう久森晃人くんのお話です。
関西弁創作指揮官が出てきてしまう。

 冬といえばコタツにみかん。久森は休みの日など寝間着のまま、コタツに入って一日を過ごしている。なるべく前日に外の用事や買い物などを済ませておくのがコツだ。実家に住んでいたときには考えられないだらけようであるが、これこそが一人暮らしの醍醐味である。
 コタツでぬくぬく温まりながら、バーチャルコンソールで手に入れたレトロゲームに挑む。RPGで話の内容自体はクソなのだが、最後のダンジョンが壮絶に長くて、セーブもできないという鬼畜仕様なのだ。ゲームオタクとして、かねてよりやってみたいと思っていたのだが、ヒーロー活動などの折り合いもあってなかなか挑むことができずにいた。しかし、今日は久森にとって久し振りの二連休で挑むなら今日しかないと踏み切ったのだった。
「これ、とんでもないクソゲーだな……」
 ラストダンジョンまでは難なくクリアするとこができた。話の内容はやっぱりクソだった。やはり問題はラストダンジョンで久森はかれこれ三時間ほどさまよっている。マップ内の重要なアイテムを手に入れたときなどはたまにダンジョンから出てセーブをしたりしているものの、疲れがひたすらたまる一方であった。話もクソだし、もういいんじゃないかと思わんでもないのだが、ここで諦めてはゲームオタクの名が廃る。全クリ画面は絶対に見たい。もはや意地である。

 たまに他のゲームで現実逃避をしながら、さらに三時間が経った……。

 いつセーブをしたかも忘れたが、ダンジョンの出口……すなわちラスボスがいる間の扉を発見した。攻略サイトで確認するが、間違いない。薄暗いトンネルの中をひたすら歩いてきて、ようやく光が見えた。そんな気分だった。久森は心身ともにボロボロになっていたが、ドット絵のその扉を発見した瞬間、目が輝いた。
 目を輝かせながら、コントローラーの十字キーを出口に向けた……その瞬間だった。

 夜中に突然呼び出しを喰らい、叩き起こされた風雲児の二人は不機嫌そうだった。
 なんでも、江波区の変電所に突如イーターが現れ、設備を破壊したのだという。お陰で江波区一体が停電になっていた。設備復旧のためにもイーターは倒さなければならない。普段なら合宿所に詰めているヒーローたちが担当するのだが、急を要するため、江波区に住まうヒーローである風雲児の二人が呼び出されることになった。
「いやー、ホンマすまんなぁ。呼び出してもうて」
「せっかく寝てたのによ……まあ、遊べるならいいけど」
「……」
「久森?」
 矢後は相変わらずであったが、いつもと違い、俯いたまま何も言わない久森に指揮官が戸惑う。矢後でさえ、「ん?」などと言っているレベルである。
「……僕」
「うわ、いきなりしゃべった」
「僕、あいつだけは許せないんですよ……」
「ヒエッ」
 顔を上げた久森は怒りに打ち震え、指揮官が初めて見る顔をしていた。「阿修羅や鬼が実在したらあんな顔してる」と彼はのちに語る。
「矢後さん、今日はトドメを譲れないかもしれません……いいですか?」
「へえー、やりたいならやればぁ? おもしれーから好きにしろ」
 この場で矢後だけがさも面白いとばかりに笑っていた。こいつやっぱりおかしい。指揮官は内心そう思った。
 変電所で暴れていた大型イーターが咆哮をあげる。久森はポケットからリンクユニットを取り出すなり、静かにそれを割った。ヒーローの姿に変身する。大型を守るように幼生体や小型イーターが久森に飛びかかってくる。
「邪魔だどけえええええ!!!!」
 久森が咆哮を上げ、術式のグローブから糸を放ち、イーターたちを振り払いながら、駆け抜けていく。それを矢後は「おー、こわ」などとわざとらしく肩を竦ませて、笑っている。彼は相変わらず寝間着のスウェット姿である。
「おい、自分前衛やろはよ行けや。何遊んどんねん」
「おう、ちょっと遊んでくるわ」
 矢後もリンクユニットを割ると久森を追いかけるように走っていった。
「一体、久森とあの大型イーターには何の因縁があるんや……?」
 一人取り残された指揮官が腕を組んで首を傾げる。
 それは久森の家のゲーム機のみが知る……。

190105